鬼塚ちひろの「眩暈」を聴くと思い出す女性がいます。
その人はいつも笑顔でいつも真剣に相談に乗ってくれる ひとつ年上のお姉さん。
今から数年前に会社の応援先で同じ職場になって知り合いました。
職場内では紅一点。美人ともかわいいとも言えないけれど
その明るい性格には光るものがありました。
例えて言うなら 愛嬌のある ニコちゃんマーク みたいな人です。
ニコちゃんは、応援に来てまもなく、右も左もわからない私に
いろいろ仕事を教えてくれました。
正確に言えば私の担当している仕事のとなりで別の仕事をしていたのだけれど、
私のしている仕事を教えてくれる人が耳の不自由な方だったので分からない時は
ニコちゃんに聞いてくれという関係でした。
簡単そうに見えて意外に難しい、それでいて扱っている物が壊れやすい仕事なので
何回も何回も聞いてしまう私。
それでも嫌な顔ひとつせず何回も何回もやさしく教えてくれました。
ハイチューをこっそり持ってきて
「これ最近新しく出た味だよ!食べるぅ?」
ってくれたこともありました。
ある時、私が上司との飲み会に誘われてたのだけど、
風邪こじらせて熱が39度ぐらいあって ぼー としながら仕事していると
おでこに手を当てて
「だいじょうぶ?早退したほうがいいよ」
って言ってくれたことがありました。
前々から楽しみにしていた飲み会だったので
「今日は絶対出席するっすよ〜!」
と、だだをこねていたら
「ばか!死んでも知らないよ!私から上司に飲み会行かれ
ないって言っておいてあげるから今日はもう帰りなよ!
病院 行ってきなよ〜!」
まるで母が子をしかるように真剣に風邪を心配してくれたニコちゃん。
とってもやさしかったです。
その年の忘年会はやたら盛り上がりました。
そのころスポーツジムに通っていて
毎日にぼしを食べるのが健康の秘決だよ!
って言ったら
帰り道、私の手をひっぱりどこに行くかと思ったら
なんと閉店間際の近くのスーパーマーケット
「プチさん!にぼし買い溜めしておかないとね!」
って笑いながらグイグイと、腕をひっぱるニコちゃん。
二次会があるから今度にしよう。ってうまく話をごまかして苦笑い。
そんなことがあってから頻繁に友達呼んできて飲みに行く機会が増えました。
ちょうど失恋したばかりだった私。
前の恋愛をひきづりつつも徐々に傷も回復しつつあったころ。
ニコちゃんが飲み会やろうよ!ってことで
上司ふたりと私。ニコちゃんと同じ会社の友達ふたり。
3対3で飲み会をやることになりました。
みんな仕事のうっぷんが溜まっていたのかテンション高くて はじけまくり
ニコちゃんふらふら状態。
「ニコちゃんだいじょうぶ?おんぶしてやろっか?」
「なにいってんのー バシッ〜☆!」
笑いながら たたく力はいつもより威力倍増。
千鳥足でふらふらと二次会のカラオケに行くことになりました。
みんなカラオケ大好きでおおはしゃぎです!
もちろんニコちゃんもマイクを離しません。
やれやれ。
「ゴスペラーズ歌えるひと〜!」
「し〜ん」
「はーい!じゃ私、歌いまーす」
さっきまで千鳥足でふらふら歩いて酔っ払っていたのに
この回復ぶりはなんなんでしょう?
ニコちゃんは歌いだしました。
ところが意外とうまいのにびっくり!男顔負けの歌声に思わず にっこりしちゃう私。
「ニコちゃん!めちゃ歌うまいじゃん!」
「まぁね 最近CD買ったから良く聞くんだぁ」
「他にどんなの聴くの?」
「鬼塚ちひろの 眩暈 とかかな?これ難しいんだ〜」
「どれどれ歌ってみぃ〜」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
ニコちゃんはテレながらもしっかりマイクは離しません。
しかも、ちゃっかりリモコンに番号入れてます。
「え〜〜〜〜〜!!無理 無理 無理 無理
〜〜〜!!」
(歌う気、満々なんじゃん (o_ _)ノ彡☆ギャハハ!! バンバン!)
そんなニコちゃんにお酒のほろ酔い気分も重なり妙にいとおしさを感じながら
曲のイントロが流れ始めました。
マイクを持ちながら左手でリズムを取るニコちゃん。
やっぱりうまかったです。めちゃうまかったです。
「合〜格〜!!」
いつのまにか審査員にされてて大盛り上がり!!
なんだかすごく心がこもっててジ〜ンときちゃって歌声にノックアウトされました。
「ニコちゃんCD貸してよ!」
「分かった明日会社に持っていくよ ゴスペラーズ!」
「ちゃうちゃう 鬼塚ちひろ ね!」
「持ってきてあげるからゴスペラーズも歌える
ように勉強しなさい!」
「は・はい!」
2〜3時間あっと言う間に過ぎ、最後にみんなで
メルアド交換を、しようという展開になりました。
「そうそう!俺この前パソコン買ったんだ!携帯はショートメールしか出来ないから
お暇な時こっちのパソコンの方にメールちょうだいね!」
ニコちゃんの友達はみんな最新型のiモード付き。
ところがニコちゃんは私と同じで、ショートメールしか出来ない古い携帯電話。
「私のeメール出来ないんだけどなぁ〜ぷんぷん」
「なーに 毎日職場で顔あわしてるじゃ〜ん」
楽しい時間はあっと言う間に過ぎほろ酔い気分で寮に帰宅。
さっそくニコちゃんからのお礼のショートメールが来ました。
「キヨウハノミカイキテクレテアリガトネ(^_^)vタノシカツタネマタコンドノミイコウネ(^_-)!」
顔文字含めてきっちり50文字でめいいっぱいの表現力。ニコちゃんらしいな。
次の日CDを借りてさっそく聴いてみました。
「無理、無理!」と言いながらちゃっかり リモコンに番号入れていた場面を思い出して
笑いが込み上げてきちゃいました。
そんなかんだで数日後パソコンにニコちゃんの飲み会に来ていた友達から
メールが届きました。
ニコちゃんと同い年の友達です。
あんまり目立たない子だったなぁ〜っていう印象だったので
最初は普通のメールのやり取りを交わしていたのだけど
何回か交わしているうちに何故か意気投合。
今度、一緒においしいカレーライスを食べに行こう!
という展開に・・・・・
ニコちゃんに報告すべきか・・・しないべきか・・・悩んでいたのだけれども
タイミング悪く夜勤明けの休みの日曜日に会うことに決定。
夜勤中だとニコちゃんと入れ違いになってしまい顔を合わすことはほとんどなく
会話をする間もなく仕事が始まってしまうのだ。
結局、何も報告することなく二人で会うことに・・・・・。
月曜日
会社に行くと同じ職場の同僚の男が私のとこに近寄ってきます。
「みたよ〜みちゃったよ〜一緒に歩いていた女の子どこで知り合ったの?」
「え!プチマッスル!女できたのか!」
「油断もすきもありゃしない!白状しろ〜!」
うわさは一気に広まり覚悟を決めました。
こうなったら正直に言うしかありません。
「飲み会で知り合った子と付き合うことになりました!!」
目撃した同僚の男友達はニコちゃんととっても仲良し。
ニコちゃんにしゃべらないわけがない。
それ以来、数ヶ月間、仕事のこと以外、ニコちゃんは口もきいてくれなくなりました。
時が経ち 応援の最終日
お別れの挨拶をひとりひとり済ませ最後に ニコちゃんの前にたどりつきました。
「ずっと黙っててごめんね・・・」
「・・・・・・」
「本当は一番最初にニコちゃんに報告しなければいけなかったんだけどなかなか言い出
せなかったんだ・・・・」
「・・・・・・」
ニコちゃんは目に涙をいっぱいため顔をぐしゃぐしゃにしながら言いました。
「彼女を大事にしなよ〜!泣かせるようなこ
としたら私が許さないからねー」
「・・・・・・・・ありがとう。」
正直、思いっきり涙がこみあげてきました。
あんなに熱心に仕事を教えてくれたニコちゃん。
あんなに真剣に叱ってくれたニコちゃん。
あんなにカラオケ大好きなニコちゃん。
ショートメールを50文字めいいっぱい気持ちを伝えるニコちゃん。
そんなニコちゃんと会えるのも今日で最後・・・・・。
短い期間だったが、楽しかった思い出が走馬灯のように駆け巡る。
あふれだしそうな涙をこらえながらめいいっぱいの笑顔でさよならしました。
今でもこの曲「眩暈」を聴くとニコちゃんの
あたたかいやさしさを思い出し涙があふれそうになります。
ちなみにその時 付き合い始めた彼女が、私の妻です。
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