最近、以前に増して良くつるむようになった古くからの友人M。週末ともなると
さみしがりやのMは必ずといっていいほど頻繁に飲みの電話が掛かってきます。
Mは地元から離れたところで仕事しているにもかかわらず先日も
「今週は帰らないよ!」
と豪語しながら、ちゃっかり週末になると地元に戻ってきていて
「今日はどこ飲みに行く?」
と、おとぼけ電話が掛かってきます。
いつも行き着けの美人ママさんのお店に着くと
一週間分の一人暮らしのうっぷんをぶちまけるかのごとく
炸裂するトークの始まりです。
「今週ドラマのセカチュー見た?あれ泣けるよなぁ〜
ばあちゃん死んだ時、思い出しちゃったよ」
「・・・っていうかおまえ、ばあちゃんのお通夜の時、俺たちと抜け出して
新しく発掘したスナック行きたいって言ってたじゃん!」
「そんな事も言ってたかなぁ〜」
当時なぜかMのばあちゃんのお通夜に参加するいつもの腐れ縁仲間たち
思えば集合場所がいつもMの家だったので、遊びに行くと、いつも
元気な声でMを呼びつけるおばあさんの声がなつかしい。
(こりゃまたしんみりした話題になりそうだ・・・)と、ひそかに思う私。
「いやぁ〜ばあちゃんの葬式は大変だったよ〜」
笑いこらえるのに
そう言うとMは淡々と葬式での笑い話を話しはじめた。
「ばあちゃんの棺桶にさぁ〜ばあちゃんの思い出の品とか入れるじゃん?
何がいいか考えてたらさぁーうちの兄貴何て言ったと思う?」
Mの兄弟は兄貴、姉貴、そして一番末っ子のMの3人兄弟。
上の2人は、市内でも1位2位を争う頭の良い高校を卒業し
成績優秀、スポーツ万能と非の打ち所のない秀才兄妹に
「俺は上の2人にみんな養分持ってかれたんだ!」
とM兄妹の愚痴は散々聞かされていたので
頭の良い兄貴の事だからおばあさんのさぞかし大事な物
を答えるんだろうなぁ と私は考えていると
「うちの兄貴さぁ〜まわりに悲しんでいる家族とか親戚とか居るにもかかわらず
お前一緒に入れよ!
なんて思いっきりブラックジョーク言いあがってサァ!」
私の心の中では大爆笑。いくらばあちゃんが大事にしていた物とはいえ
孫を生きたそのまま棺桶に入れようなんて発想はさすが秀才兄貴だと思いつつ
「そりゃぁ笑えないよなぁ〜」 と話を合わせる私。
さらにMの話は続く
そんで葬式の最中、家の兄貴ったらお坊さんの軽快な木魚のリズムと
長〜いお経の中、こっくりこっくり居眠りはじめちゃってさぁ!
それに気が付いた隣に座っていた姉貴が俺に向かって
コツ!コツ!ってひじで合図送りながら
前方に座っている兄貴の方をあごで指すんだ
「M!M!ほら!兄貴兄貴、見てごらん!」
俺、最初何言っているのかぜんぜん分からなくて
ふと前の方に座っている兄貴の方を見ると
おお船に揺られているかのごとく、こっくりこっくりと
うたた寝しているではありませんか!
ましてや葬式の真っ最中、席を立ってなど、誰も注意できません。
その光景を見ていたら クス クス と笑いがこみ上げてきちゃって
まさかこの雰囲気の中、大声で笑うわけにもいかないし
グッと笑いをこらえて姉貴の方を見ると姉貴も笑いをこらえて涙をためながら
また、ひじで合図送るんだよ
「M!M!ほらほら!兄貴兄貴!」
もう笑いをこらえるにも限界がきていて
「分かった分かったから・・・かんべんしてくれ〜」
と、お経の声しか聞こえない部屋の中、小声で姉貴につぶやくM。
そうとは知らず兄貴のうたた寝の揺れは激しくなるばかり!
今にもいびきが聞こえてきそうな勢いです
Mの目にも笑いをこらえる大粒の涙がこぼれていると
次の瞬間
チ〜〜〜〜ン!
とお坊さんの鳴らす鐘の音が響き渡り
兄貴は電気が走ったかのごとくピ〜ン!と背筋を伸ばして
いかにも寝てませんよ!というしぐさ!
その光景に思わずふき出してしまい
「うぷっ!!ゴホン!うぷふ!ゴホン。」
と小さく咳笑いしうつむくM。
となりでは相変わらず 「ほら!見て見て!兄貴兄貴!」 と目で訴える姉
笑いたくても笑えないつらい状況が続く中、
(何にも見てない、何にも聞いてないゾ!)と頭の中で念仏を繰り返し
自己暗示にかけるMだが一向に、こみ上げる笑いは、おさまりません
となりを見ると姉貴も笑いの限界がきたらしく
うつむきながら手で顔をおおい、如何にも、ばあちゃんの死を悲しんで
泣いているかのようにすすり泣きだした!
しかしそのすすり泣きの声の狭間にあきらかに笑い声が混ざっている
ことに気付いたMは連鎖的に特大な笑いが込み上げてきてしまい
姉貴と一緒になってうつむきながら手で顔をおおい、
2人そろって大声ですすり泣きを始めました。
笑い声が他の人にばれないように時折咳をゴホゴホおりまぜ
なんとかその場をしのぎ落ち着きを取り戻した2人だが
2人とも汗だらだらです。
(たのむ〜早く葬式終ってくれ〜) と心の中でさけぶM。
しかし本当の笑い地獄はこの後、おきるとは誰が想像したでしょう?
ふと兄貴の方に目をやると
ま〜た こっくりこっくり始まっていたのだ!
Mと姉貴は目を合わせたら絶対笑いがふき出してしまうと悟り
お互い目を合わせないようにしていると
ななめ前に座っていた親戚のおばさん連中が
Mの兄貴が居眠りしそうになってこっくりこっくりとやっている
ことに気が付き、必死で笑いをこらえているではありませんか!
その光景を見てしまったからたまりません!
腹の底からこみ上げてくる怒涛のような笑いを必死にこらえるM。
すでによじれんばかりの腹筋はパンパンで額には冷や汗と
笑いをこらえる涙で顔はぐしゃぐしゃです!いつのまにか念仏までとなえる始末。
(ナンミョウホウレンゲイキョウ・・・・ばあちゃ〜〜ん!助けて〜〜〜!)
しかしそんなことはお構いなしに兄貴の揺れは激しくなるばかり!
さらにおばさん達が必死で笑いをこらえて笑い声を押し殺している姿を
まのあたりにし、となりでは姉貴が笑い交じりのすすり泣き。
笑いをこらえるにも限界を達していたちょうどその時
チ〜〜〜ン!
とお坊さんの鐘の音が響き渡り
電気のはしった兄貴はビシッと背筋をただす。
「ぶふふっ〜〜〜!!!」
と思わず声に出てしまうM。
家族、親戚一同一斉にすすり泣くが、あきらかにその影に
笑いが多数混ざっていたことは言うまでもない。
後日Mは兄貴に
「葬式で寝てんなよ〜!俺と姉貴、大変だったんだから!!」
と、激怒すると平然とした兄貴は
「寝てねぇよ〜」
と自分の笑いの種をサクッと否定したそうだとさ。
笑いたくても笑えない状況。これが一番つらいと思うのはみんな一緒なんですね
如何に笑いをごまかすか、あなたも研究してみてはいかがでしょうか?
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