第四笑



作品タイトル
目印(めじるし)



プチマッスル体験談            


それは私がスポーツジムに通っていたころのお話です。

当時、私は暇さえあればトレーニングに精を出し、

ダンベルはもちろんのこと、水泳、ランニングマシーン、エアロビクスまでも

チャレンジするまさに究極の肉体を手に入れるべくトレーニングに励んでいました。

今日もいつものようにジムで汗を流して仕上げは3kmのスイミングでした。

ふとプールをのぞくと、おなじみの腐れ縁友達Mがプールに入るところでした。



「今、来たの?」

と私が尋ねると、いつもの調子でMは

「おう!今さっきな。しかしおまえはすげーよなー」

と、ふざけて私の胸毛を引っ張ってきます。

「おまえの海パンからはみ出している毛ほどじゃねぇけどな」

といつもお約束のように私は言い返すが負けじとMは言い返します

「頭からケツまでぐるっと一周毛がつながってるんじゃないのか?」

「おまえもな」




Mと私はいつもこんな感じの会話ばかりです。

そんなかんだでトレーニングのノルマをやりこなし家に帰りました。

その日は真夏のまっただなか、今日も熱帯夜になるんだろうなぁ〜と

時代遅れの扇風機を全開にかけ、パンツ一丁でたたみに仰向けに寝転んでいる時、

私は信じられない光景を目撃してしまいました。

どこからともなくやってきた一匹のアリんこが、私の胸毛の中に迷い込み、

まるで青樹ヶ原樹海で遭難したかのように

立ち往生してうろうろしているではありませんか!

しばらくその光景を観察していましたがショックは隠しきれません。

そういえばこの前、暑いから上半身、はだかのまま飯を食べてたら親父が

まじまじと私の胸元を見るなり

「おまえの胸毛すげ〜なー!一体誰に似たんだ?」

とか言ってたなぁ。(あれって冗談で言っているんだよなぁ?・・・)

腐れ縁の は相変わらず胸毛をひっぱってくるし・・・

(俺の胸毛ってそんなにすごいのかなぁ?)と思う半面、

(熱帯夜で暑いのはきっと胸毛のせいだ!)

と複雑な心境に陥っていました。私はこのアリんこの悲劇を見て、ある一大決心をしました。

「よーし!アリんこがあと1分以内に脱出出来たらこの事は見なかった事にしよう。
そして脱出出来なかったら・・・そるしかないな」と・・・・・

・・・次の日・・・

一大決心をした私は、風呂場で 胸毛断髪式 を決行することに決まりました。

アリんこも脱出不能だったのです!!

産まれてこのかた男の象徴として信じてきた立派なギャランドゥ。

どうせ切るならかっこよくデザインカットしてしまおう!と

前々から考えていたバットマンのこうもりマークになるように、かみそりを入れます。

我ながらスゲーなーと思ってしまうほど5cmぐらいの毛の束がごっそりと落ちます。

風呂場で鏡を見ながら慎重に剃っていきます

(う〜む。いい調子!いい調子!だんだんバットマンに近づいて来たぞ〜)

と、にんまりしている私。と、その時!

「いつまで入っているの〜!」

と言う突然の母親の声にドキッ!とし、手元がくるってこうもりの羽の部分を切り落としてしまいました。

あっ!なっ!なんだよ〜いい調子だったのに〜あ〜あ!)

と心で叫びながら冷静に返答する私。

「もうすぐ出るよー」

私はしょうがなく第二候補だったスペードマークにすることにしました。

しかし「もうすぐ出るよー」と言ってしまった焦りからか、なかなかうまくいきません。

結局めんどうくさくなった私はきれいさっぱり剃ることに決めました。

きれいさっぱり生れ変わったつるつるの感覚は

初めて毛が生え始めた小学校5年生当時を思い出させます。

これでスポーツジムでの 隠れ胸毛ファン も激減するな〜

と意味不明なことを考えながら今日もスポーツジムに向かいます。

例のごとくがプールに入ろうとしているところを遠くの方に目撃したので

「よう!M!来てたんだ?」と声をかけます。

しかしは、気づいていなかったのか知らんぷりです。

(あれ?おかしいなぁーあいつがあんなに真剣に泳いでいるなんて

天と地がひっくり返ってもありえないのになぁ〜)

珍しい光景を見てしまった私はのトレーニングの邪魔をしないように

気遣って私もプールに入ります。

しばらくして泳いでいると、たまたま隣のラインをすれちがったので私は、

気を使いながらも、泳ぎながら手で合図を送ります。

(お〜い!がんばってるなぁ〜!)

しかし相変わらず見てみぬふり、しかとされました。

(ちっ!なんだよう!)

と思いながらも私はの邪魔をしてはいけないと気を使います。

私もこりずにすれちがうたびに合図を送るが、

絶対気付いているにもかかわらずは無視をし続けます。

がノルマを終えたらしくプールの端で休んでいました。

なぜかこっちをちょろちょろ見ています。私も自分のノルマを終えたので

反対側の端で休んでいるに向かって歩いて近づきながら

「なんで無視すんだよ〜!」と、しゃべりかけます。

するとMは目を細めながら

私の方を(誰だ?こいつ)とでも言うような目つきでこっちを見ています。

誰だか分かっていないようです。

だんだんMに近づいて行くにつれ、みょうに他人行儀に

「こんちわーす」

と私に向かって頭を下げてあいさつまでもしてきます。絶対ありえない光景です。

「はぁ?」と私はの目の前まで近づいて行きました。

そのときはやっと私という存在に気付いたらしく

「な〜〜んだ!おまえだったのかー!!」

といつもの調子に戻りました。

「合図送っていたの気付かなかったのかよう!?」

私はに尋ねると

「誰かと思ったよ!それよりおまえ胸毛剃ったのかぁ!」

と今さらながらびっくりして答えます。

それで私は悟りました。目が悪い

今まで私の胸毛を目印にして
私ということを判断していたのです!

追い討ちをかけるごとく

「胸毛剃ったからぜーんぜんおまえだとは気付かなかったよ〜」

という言葉に私はがくぜんとし

おまえ胸毛目印にすんなよ!

としか言い返せませんでしたとさ。

それ以来
 
胸毛  

のイメージを崩すために

時々剃ってイメチェンしていることは腐れ縁仲間達は知らない・・・。



その他の作品
第一笑
第二笑
第三笑
第四笑
第五笑
第六笑
第七笑
第八笑
第九笑
第十笑
十一笑 十二笑 十三笑


笑える壺美術館
戻る