第六笑



作品タイトル
掛け声(かけごえ)



友人 M の体験談     


これは私の友人 M が中学時代厳しかった新米バスケ部の時の話です。当時(今から

約20年前)の私の中学校は海岸沿いでかもめの校章の似合う某H中学校で世間からは

一位二位を争う違う意味での有名な学校でした。授業中には廊下から牛乳パックや煙幕

花火が中を舞い休み時間には先輩から誰かしら廊下に呼び出され、いびられていまし

た。同じクラスのけんちゃんは中学一年生、まじめでからかいがいのある生徒でした。

入学して間もないある日、けんちゃんは、バスケ部の怖い先輩に呼び出され

「おい!おまえはバスケ部に入れ!」

とお呼びがかかり、まじめで勉強家のけんちゃんは断ることも出来ず

仮入部することに決定しました。

その日は土曜日、土曜日の午後と言えば部活。早速体操着に着替えたけんちゃん

はバスケ部に向かいます。とんとん「失礼しまーす」とけんちゃんは礼儀正しくバスケ部の

部室に入ります。そこには短い学ランとダボダボズボンの先輩の方々と

他にもオヨビのかかった友人Mを含めて新米バスケ部の友達が立たされていました。

「おい!おまえ!ちょっとジュース買って来い!」

とオヨビがかかったけんちゃんは「は・はい!!」と反射的に答えました!すると先輩

は自分の持っているペラペラの財布をごそごそやり出したかと思うと

「おう!5人分買ってこいや!」

と、古ぼけた5円玉を一枚、けんちゃんに渡します。

「あ・あの〜」とけんちゃんは言おうとすると

怖い先輩たちは一斉にけんちゃんに鋭い眼光レーザーを発しました。けんちゃんは

半べそをかきながら近くの自動販売機へと歩き出しました。そうです!残りは自腹で払え

ってことです。けんちゃんはしぶしぶ5人の先輩分のジュースを自腹で買い、戻ってくると

新米一年生達は腕立て伏せをやらされていました。

「おう!腕立て伏せ100回!出来ないやつは海岸走ってもらうぞ!!」

とまさに男塾ばりの厳しい試練が待っていて、けんちゃんは20回も出来ないうちに

ギブアップてしまい砂浜海岸(約2キロ)を走るはめに合いました。

当然のことながらみんな100回も出来る腕力もなく新米部員全員出来ません。

「出来なかったヤツ!一列に並べ!」

と言うなり短い学ランの先輩はひとりひとりにゴミをつまむ大きなピンセット

みたいなものを配り

「海岸で犬のうんこひとり一つずつつまんでこい!」

とおっしゃいました。無言のまま新米部員は走り出します。「先輩たちは何をたくらんでい

るんだろう?」とM。あまりのショックに時間ばかり気にするけんちゃん(早く帰りたいよ〜)

半べそかいてる新米部員。(神様はそんなにむごくないよな・・・・)

まさに地獄の光景だったそうです。海岸を走り終えてひとり一つずつ

ピンセットで犬のうんこをつまんでます。

「よーし 自分の目の前におけ」 Mはいやな予感がしました。

「じゃぁ〜その上で腕立て伏せ10回からいこう!」

「え〜〜!!」と新米バスケ部の部員は声を出さずに心の中で叫びます

途中で力尽きたら胸のあたりが「べちゃ!」となることは言うまでもありません!

「勘弁してくださいよ〜〜〜!!」

と涙ながらにみんな試練にこらえてます。けんちゃんも例外ではありません。

よりによってけんちゃんはしりたてホヤホヤうんこを持ち帰って来てしまったことに

絶対後悔していたに違いないと、Mは思いつつも何とかがんばり全員クリアです。

「よ〜しみんな集まれ〜」 先輩は一応バスケ部の練習らしく

スクラムを組んで掛け声を出せ!とみんなに呼びかけました。

新米部員のバスケ部に対する意気込みを聞きたいばかりに

「1年の掛け声に続いて2年がリピートいいな!」

普通逆じゃないですか?と言いたいところをおさえる新米部員。

2年の先輩も交じってスクラムを組んで掛け声を出します。

「ファイト〜いくぜ!おう!いくぜ!おう!いくぜ!」

と、声を出して言います。「声が小さ〜い!もう一回!」

と言うなりダボダボズボンの先輩はけんちゃんの買ってきたジュースを

おいしそうにガブガブ飲んでます。

「ファイト〜いくぜ!おう!ぜ!おう!ぜ!」

「何か変だな?」と首をかしげる短い学ランの先輩。

Mはその時、気づいてました。けんちゃんが違うことを言っていることを・・・・

「もういっか〜い!」「ファイト〜いくぜ!おう!ぜ!おう!ぜ!」

「けんちゃん勘弁してくれよ〜」と、スクラムを組みながら笑いをこらえる Mの心の声!

「まだまだ声が小さ〜い」

「ファイト〜いずぜ!おう!ぜ!おう!ぜ!」

Mは一瞬ふきだしてしまったが、先輩達に悟られないように必死につらい演技をする状況!

ダボダボズボンの先輩も気づいたらしく「何か変だぞ!一人一人言ってみろ!」

まずはM。「ファイト〜いくぜ!おう!いくぜ!おう!いくぜ!」 「よーし次!」

けんちゃん!君の番だよ!とMが呼びかける。

Mはその時、こころの中で笑い転げて、を流していました。

けんちゃんは

「WHAT〜 IS THIS ? OH! YES?
 OH! YEAH !」

(ファット〜イズディス? オー! イエス! オー! イェイ!)

と、何の疑いもなく自信たっぷりに言いました。

一瞬にして先輩たちは大爆笑!

ジュースを飲んでたダボダボズボンの先輩は思いっきりふきだして自慢のズボンも

ビショ濡れです。

突然の出来事に笑ったら先輩につっこまれると必死に笑いをこらえる新米部員。

けんちゃんは勉強家だったので掛け声を何と言っているか分からなかったのです!

「あ!!!お前何とかすんだよこのクソヤロ〜!!」

とビショビショの自慢のズボンをはたきながら激怒するダボダボズボンの先輩。

となりで腹をかかえて笑っている短い学ランの先輩は勢いあまって新米部員の

海岸から拾ってきたうんこを「べちゃ!!」っとふんずける始末。

「こんなところに誰が置いた〜〜!!」

新米部員は笑いたくても笑えない状況に必死でこらえる大粒の

言うまでもなくけんちゃんは海岸で拾ってこさせられたホヤホヤうんこの上で

ひとり腕立て伏せを100回やらされ、先輩方の期待にみごとに答え、

泣きながら家に帰ったそうです。

けんちゃんは今では英語の家庭教師をやっているそうだとさ・・・・。



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